【感想・ネタバレ】小説 秒速5センチメートル 作:新海誠

スポンサーリンク
タグ(大)

どれほどの速さで生きれば、きみにまた会えるのか

小学校の卒業と同時に離ればならになった遠野貴樹と篠原明里。

ふたりの間だけに存在していた特別な想いをよそに、時だけが過ぎていった。

そんなある日、大雪の降るなか、ついに貴樹は明里に会いに行く・・・

貴樹と明里の幼い恋心と彼らの再会の日を描いた「桜花抄」

高校生へと成長した貴樹に想いをよせる同級生、澄田花苗の視点で描く「コスモナウト」

そして、彼らの魂の彷徨を切り取った表題作「秒速5センチメートル」

「いま、ここ」の日本を舞台に、叙情的なビジュアルで綴られる三本の連作短編アニメーション作品。

以下、ネタバレ含みます。

「小説 秒速5センチメートル」を読みを終えた感想(ネタバレ含)

本編では消化不良な点を補足してくれると評判でしたので購入しました。

作者も原作者である新海誠なので安心して読めますしね。

実際読んでみると、アニメでは分からなかった事がたくさん分かりました。

第一話「桜花抄」では、貴樹や明里がどんな気持ちで東京に引っ越してきたのか、岩舟まで会いに行く間にどんな事を考えていたのか、

中学校での生活ぶり、キスした時の思考がより詳しく書かれていました。

第二話「コスモナウト」では、貴樹に恋する花苗を全面的に主人公にして彼女の気持ちがより分かるようになっていました。

アニメでは貴樹へ恋とサーフィンへの情熱のみが印象的な彼女でしたが、小説では進路への悩みと姉への気持ちなども加えられ、その事がより貴樹への想いを強めている事を丁寧に描写されていました。

アニメではハッキリ描かれませんでしたが、小説では花苗は貴樹が東京へ旅立つ時に告白ではありませんでしたが、きちんと想いを正面から伝えていたようです。

その行動は貴樹の今後にきちんと影響を及ぼしているようで、彼女の想いが少しでも報われて良かったなと思いました。

第三話「秒速5センチメートル」。

アニメ版には無かったたくさんのエピソードが描かれています。

貴樹の大学時代の話。

一緒にバイトした同じ大学の女の子とはじめて付き合った事。

辛く苦い付き合いとなった、塾でのアルバイトの同僚との付き合い。

仕事での充実感を味わいながらも、辞めてしまうに至った理由。

大人になった貴樹の苦悩が小説版では特に凝縮して描かれています。

全てを読み終えて思ったことはたくさんありました。

箇条書きでまとめていこうと思います。

●子どもの頃の貴樹は女の子にとって本当に良い男だったのだという事。

子どもの頃の明里にとって、貴樹は本当に必要な存在でした。

自分と似た境遇で、精神的にもよく似ている。

口には出していないけれど、お互いが好き合っている事を信じられる。

それでも、転校する事になった明里は中学生になってもしばらくは貴樹が離れていてもなんとか会える距離にいるという事を支えにうまくやっていこうと努力出来ていました。

また、貴樹が鹿児島に行くと分かってからは貴樹がいなくても頑張るんだと精神的成長への支えになっていました。

最後に手紙を渡せなかった事自体、明里の方は自分にプラスに出来ていましたし人間的成長は貴樹抜きでは無かったのでは思います。

鹿児島の花苗は、貴樹の存在のおかげで進路への悩みをうまく原動力に変えて生きる活力にしていたと思います。

貴樹への告白は出来なかったですが、空港での別れの時、これまで5年間もずっと言えなかった事を正直にまっすぐに貴樹に伝える強さが、それまでの貴樹を想う日々のおかげで出来上がっていたように思いました。

子どもの頃の貴樹は女の子の精神的成長にとにかく無自覚に作用する良い男だったと思います。

●大人になった貴樹はパートナーと寄り添うことが出来なかった。

大人になって貴樹は子ども頃に誓ったように自立した人間になれるよう努力してきたと思います。

でも、そのせいで弱さをパートナーに見せまいとずっと一線引いていたように思います。

貴樹はかつて明里から言われた「貴樹君はこの先も大丈夫だと思う」という言葉を欲しがっていました。

誰かに自分を肯定して欲しい気持ちがあっても、明里と接するように出会う女性に接する事ができなかったのでは無いかと思います。

1人でずっとがむしゃらに頑張ってきた貴樹はやはり自分の事が不安で誰かに肯定して欲しかった。

でも上手く付き合え合い貴樹はその言葉を貰えないまま時が過ぎてしまったんだと思います。

●貴樹は明里の事をずっと引きずっていたわけではない。

アニメを見て、僕は貴樹は大人になるまでずっと明里の事を心のどこかで信じて引きずっているだと思っていました。

でも、そうではないと小説を読んで思いました。

あのキスをした後、電車に乗って変えるときには貴樹は明里とはもう会えないし、そうなるものはしょうがいないとして忘れようとしていたと感じました。

だから、鹿児島にも明里から手紙が来た時は驚いていた描写がありました。

確かに貴樹は明里に対して恥ずかしくない立派な人間になろうと誓っていますが、貴樹にとって、明里は思い出で彼女を迎えに行くためという意味では無いのだと思いました。

花苗の想いを理解しながらも拒絶していたのは、明里への未練では無く、自分に対する恋心への応え方が分からない、自分はもうすぐ鹿児島から離れるという気持ちからだったようです。

貴樹が大人になっても引きずっていたのは明里という個人ではなく、彼女の言った「大丈夫」という言葉だったのだと思います。

それが欲しくて、それを与えられないから貴樹は付き合ってきたどの女性とも上手くいかなかったのではないでしょうか。。

●明里へ手紙を渡せていたら、明里から手紙を受け取っていたら・・・

中学生のあの日、貴樹は手紙を無くしてしまうし、明里は手紙を渡さずに別れました。

小説の中では手紙は渡せても、渡せなくても結果が同じだったと貴樹は語っています。

明里は渡せなかった手紙は大切な思い出に出来ているようでした。

でも、僕は手紙を渡せていたらと思います。

確かに二人が結ばれてることはないと思いますが、お互いの今後の過ごし方は変わったのでは無いでしょうか?

手紙にはお互い、「好きだった」という言葉と「さようなら」という言葉が書かれていました。

これは小説でしか描かれていませんが、つまり二人共、思い出に、過去の事にしてこれからは頑張ろうと書いています。

手紙を受け取っていれば、明里が鹿児島の貴樹に手紙を送ることは無かったでしょうし、その手紙に困惑する貴樹も無かったでしょう。

少なくともお互いにもっと晴れやかな気持ちで中学時代を過ごせたのではないかと思います。

●「秒速5センチメートル」は全然バッドエンドでも鬱エンドでもなかった。

小説により、貴樹や明里の心理描写や大人になってかたのストーリが補足された事で物語の印象は随分変わりました。

幼い恋心をいつまでも引きずっている男が主人公だと思っていましたが、もうそうは思わなくなりました。

精神的成長は女の子の方が早い。

ようするにそういう事かなと思っていました。

それは小説を読んでも間違いなく結論なのですが、貴樹は社会的には器用になれたが、精神的には不器用なままだった。

そういう事なのだと思います。

アニメでも小説でも、貴樹は最後吹っ切れた表情をしています。

その表情に救われますね。

貴樹はようやく、明里や花苗のように強くなって前に進む。

「秒速5センチメートル」は素晴らしいなと思いました。

小説版はほんとにオススメです。

アニメを見た人も見ていない人も楽しめると思いますし、200ページも無い本ですのであまり小説を読まない方でもそんなに時間をかけず読めるのではないかと思います。

それでは失礼致しますm(__)m